Nikolaiviertel は、Spree の対岸(写真の下方)の Museumsinsel の南端に当たる部分(Fischerinsel)に存在した Cölln とともに、Berlin の最も古い地域を構成する部分である。2つの小都市はもともと別の町であり、Berlin には、現在 Molkenmarkt(写真の左上の三角形の広場)という地名が残っているように、乳製品の市場を中心に栄えた町であり、Cölln の方は、Fischerinsel という地名が残っているように、言ってみれば漁業を中心にした町であった。
   現在では、Cölln の方は地名に名残を残すのみで、ほとんど跡形もないが、Berlin の方は、Nikolaiviertel という形で一応その歴史を留めている。〈一応〉と書いたのは、ここには最古の Berlin がそのまま、あるいはできるだけそれに近い形で残されているわけでは決してなく、ここに立っている建物が、言ってみればほとんど新しく作り直したものだからである。写真の中央に見える2つの尖塔を持つ Nikolaikirche は別として、ここにはレストランや骨董屋、土産物屋など、観光地に不可欠なものは大体揃っている。なお、写真の中央上の建物は Rotes Rathaus、右側の広い道路が Mühlendamm である。
   また、教会の左上の建物の1階には Kartoffel Laube(ジャガイモ亭)というジャガイモ・レストランがある。ジャガイモ・レストランは東ドイツの多くの町に必ず存在する一風変わったレストランで、出される料理の分類が、基本的には〈塩ゆでジャガイモ豚の背肉のステーキ添え〉などのように、通常ならば添えであるはずの、さまざまな形で調理したジャガイモ(塩ゆで、ピューレ、スライスして焼いたものなど)が主体で、それにステーキやオムレツや魚料理が〈添えられる〉といった、逆の形をとったものである。ドイツには、歴史的に見れば何百種類ものジャガイモが存在し、現在市場に出回っているものも、アルコールや片栗粉(正確にはジャガイモの澱粉)などを作る工業用を含めて50種類くらいあるが、美味しいジャガイモを食べるには、こうしたレストランを訪れてみるのも一つの手である。
   その Nikolaikirche(写真右) は、この地区の中心であるばかりか(地区名もここから来ている)、Berlin で最も古い教会であり、1230年にはこの場所に立っていたことが分かっている。写真では塔が1つしかないように見えるが、実は2つあり、この塔も1300年には存在していたという記録がある。爆撃で廃墟と化したが、1987年に再建され、現在では Berlin 史の歴史博物館になっている。なお、右の写真中央の Nikolaikirche の尖塔の真下に見える小さな3階建ての建物は、Nikolaiviertel が作り直された際に Fischerinsel から移築された Zum Nußbaum という Berlin 最古のレストランである。
   Nikolaikirche のところから8車線の Mühlendamm を跨いだ反対側に、上で触れた Molkenmarkt があるが、これは今では名ばかりで、広場と言える代物ではない。しかし、そこで交差する Stralauer Straße を少し右に行くと、左側に Berlin 最古のの城壁の名残が見られる。この城壁は、Berlin と Cölln が共同して外敵から町を守るために、13世紀の後半に建造されたものである。