パン Brot (→ Brotmuseum)


 ドイツ人にとってパンは18世紀にジャガイモが取り入れられる前からの重要な食品で、さらにゲルマン時代以来、そしてキリスト教への改宗後はワインとともに独特の宗教的な意味を担わされてきた。

 食事と同様に種類がきわめて豊富で、これも地方色の豊かさを反映している。基本的には小麦粉を使う白パン(Weizenbrot)とライ麦粉を使うライ麦パン(Roggenbrot)ないし黒パン(Schwarzbrot)の二種類に大別できるが、後者には純粋にライ麦粉のみで焼かれるものは少なく、小麦粉の配合率(両者を混ぜたものを混合パンMischbrotと言う)によって様々な色になり、またライ麦の挽き方や焼き方によっても変わる。焼き時間は黒パンの方がはるかに長く、最低2時間、丸1日かけて焼くものもある。

 形は白パンの方が変化に富んでおり、黒パンは長楕円形から円形までの差こそあれ、すべて単純な丸い塊をしている。つまり、後者はほとんど細工ができないが、その理由は粉の性質の違いにある。小麦粉にはグルテンが含まれており、練ると生地がのび、またイースト菌で発酵させるとオーブンの中でさらに膨張するが、ライ麦粉は粘りが非常に弱く、焼いてもほとんど膨張しない。したがって黒パンは型に入れたり、予め成形することが不可能である。焼き時間が長いこともこうした粉の性質による。

 一般的に白パンは都会で、黒パンは田舎で主に食されるが、同時に産地とも関係する。つまりライ麦は北ドイツ(および東欧からロシア)の産物であり、したがって北に行くほど黒パンが多くなり、逆に南に行くほど白パンが増える傾向がある。但しこの区別はあくまで一般的なもので、方言と同様、ドイツのパンの種類や特徴は様々に入り交じっている。特に今日のようにその住民が様々な地方の出身者からなる都市では、ほとんどすべての種類のパンが手に入る。好みや時と場合によって食べ分けられ、〈食事〉の項で触れたように、一般的に白パンは朝食用、黒パン(というより大部分は茶色の混合パン)は夕食用である。