part 4

1969-1970

悲しく、そして華々しい終末
1968年、"THE BEATLES"の制作段階でメンバー間の軋轢があらわになり、もはや1枚岩の共同体 ではないことが明白たる事実となってしまった「ザ・ビートルズ」。
デビュー以来、メンバー4人とジョージ・マーティン、ブライアン・エプスタインによる 数々の大ヒット作を産み出し時代の象徴ともなった彼らですが、終 末へのカウントダウンはこの時すでに始まっていました。
196811月、その段階ではまだビートルズというグループに対して、多大なる愛着と期待を 持っていたポール・マッカートニーが、"MAGICAL MYSTREY TOUR"の汚名挽回とメンバー 間の信頼感の再構築を目指し、「レコーディング風景を撮影して映画の公開と同時に発表」 というアイデアを提案。
ジョン・レノンの「オーヴァー・ダビングを排した生のバンド・サウンドを」という主張 を受け入れて、ポールがエンジニアリングをグリン・ジョンズに依頼したのが12月。
こうして立ち上げられたのが"GET BACK"プロジェクトでした。
"THE BEATLES"リリースからわずか1ヵ月後のことです。
1969年のビートルズの活動は、この"GET BACK"のレコーディング・セッションから始まります。
(これとは別に前年公開された映画"YELLOW SUBMARINE"のサウンド・トラックが1月17日に 発表されるが、このアルバム制作にはビートルズ当人たちはほとんど関与していません。)

しかし、年頭から始まった"GET BACK セッション"は"THE BEATLES"制作時にも増し て険悪な雰囲気の中で進められ、映画撮影のアイデアはニ転三転、またもジョージが一時的 に脱退、と混乱は極まっました。
ビートルズのレコーディング史上初の公式セッション・メンバー、ビリー・プレストンの 加入により何とか持ちこたえたものの、関わる人間すべてに「これが最後」であることを 思い知らせる「とどめの一撃」となるに十分な仕事となってしまいました。
19695月にグリン・ジョンズが完成させた"GET BACK"1版 はメンバーにダメ出しを喰らってボツ。
701月の改訂版もO.K.が出ず、この時点で"GET BACK"の発表はなくなりました。
703月、フィル・スペクターの手によりリミックス、オーヴァーダビングが行われ、最後 の公式アルバム"LET IT BE"として197058日にリリースされことになります。

本当ならここで完全に終わってもおかしくはなかったビートルズですが、トップとしての自 意識から最後の力を振り絞り、名作"ABBEY ROAD"の制作に入ったのは697月。
"THE BEATLES"の頃から続いていたメンバー間の不和を、微塵も感じさせないその抜群のサ ウンド・ワークは往年のビートルズ・マジックの復活を思わせました。
メイン・プロデューサーにはジョージ・マーティンが再登板。
"THE BEATLES"で非常に良い仕事をしたクリス・トーマスが、補助プロデューサーとして 復帰し、エンジニアにはアラン・パーソンズが起用されてビートルズの最後の花道を飾 る支えとなりました。
しかし、レコードとしてはまさに「大逆転」の大仕事を成し遂げた彼らも、アップル・レ コードの経営や自分たちのマネージメントを巡って激しく対立(妻リンダの親族に任せた いとするポールと、アラン・クラインのによるマネージメントを主張する他の3人)し、音 楽以外の部分での決裂が致命傷となって、ザ・ビートルズはグループとしての歴史に幕を 下ろすことになるのです。

YELLOW SUBMARINE
SIDE A
01. Yellow Submarine
02. Only A Northern Song
03. All Together Now
04. Hey Bulldong
05. It's All Too Much
06. All You Need Is Love


SIDE B
01. Pepperland
02. Medley : Sea Of Time〜Sea Of Holes
03. Sea Of Monsters
04. March Of The Meanies
05. Pepperland Laid Waste
06. Yellow Submarine In Pepperland
YELLOW SUBMARINE
英国発売:1969年1月17日
プロデュース:ジョージ・マーティン
前年68年に公開されたアニメーション映画"YELLOW SUBMARINE"の公式サウンド・トラック として長い間ファンの皆様にご愛聴いただいた本作ですが、じつはかなり投げやりな作品です。(笑
(大体サウンド・トラックが翌年にずれ込むたあ、どういうこっちゃ。)
A面の「ビートルズ・サイド」はA-1A-6が既発表曲、A-2"Sgt. PEPPERS LONELY HEARTS CLUB BAND" のボツ曲、A-3A-4は一応本作のための新曲だが「やっつけ仕事」のニオイが充満。
ある程度力を入れて作られたのはジョージ・ハリスンのペンによるA-5ぐらいか。
この曲でジョージは、(おそらく)ジミ・ヘンあたりを意識したと思われるハードでサイ ケなギターサウンドを披露してくれます。
B面はジョージ・マーティン・オーケストラによる映画挿入曲6曲を収録。

ビートルズの4人が積極的に制作に関わった作品ではなく、あくまでも映画の副産物とし て生まれたものだけにアルバム単体での評価はしようもありませんが、映画の出来自体は非常に 良く、ビートルズ作品の中でも人気の高い作品となりました。
映画では、本作収録曲以外の過去のビートルズ・ナンバーも多数使用され、1999年にはそ れらをすべて収録したリミックス・アルバム"YELLOW SUBMARINE SONGTRACK"(リミックス :ピーター・コビン)が発表されました。

LET IT BE (1970)
LET IT BE
SIDE A
01. Two Of Us
02. Dig A Pony
03. Across The Universe
04. I Me Mine
05. Dig It
06. Let It Be
07. Maggie Mae


SIDE B
01. I've Got A Feeling
02. One After 909
03. The Long And Winding Road
04. For You Blue
05. Get Back


LET IT BE... NAKED (2003)
LET IT BE... NAKED
SIDE A
01. Get Back
02. Dig A Pony
03. For You Blue
04. The Long And Winding Road
05. Two Of Us
06. I've Got A Feeling
07. One After 909
08. Don't Let Me Down
09. I Me Mine
10. Across The Universe
11. Let It Be
LET IT BE
レコーディング:1969年1月 トゥイッケナム・スタジオ、アップル・スタジオ
(一部69年後半、70年録音含む)
オリジナル・プロデュース:ポール・マッカートニー、グリン・ジョンズ
リプロデュース:フィル・スペクター
英国発売:1970年5月8日

私が初めてこのアルバムを購入して聴いたのは、ビートルズ・ファンになったごく初期 だったように記憶しています。
ビートルズを知るきっかけとなったTVの深夜番組で見たのは"Let It Be"の演奏シーンでした。(Diary参照)
そこで知った「メガネをかけたロックの人」ジョン・レノンの姿が写っているジャケット が子供心にも寂しげで、なにか特別な意味のあるレコードなのだと直感で悟った記憶がお ぼろげにあります。
このレコードが生まれた経過、いきさつを一切抜きにして純粋に音盤として評価するなら、 やはり「駄作」の部類に入れざるを得ないのかもしれません。
仕方がないとはいえ、つぎはぎだらけの無理やりでっち上げたレコードです。

では、2003年に鳴り物入りで登場した"NAKED"についてはどうでしょう。
そもそも、ポール・マッカートニーと他のメンバーの決裂の象徴のひとつとして今も語り 継がれる"THE LONG AND WINDING ROAD"のオーケストレーションにしても、本人達の意識は どうあれ「公式」ヴァージョンはオリジナル"LET IT BE"の中のそれであり、現に世 の中にはその公式ヴァージョンが幾度となく流れ、我々の記憶にも焼きついてしまったわけです。
ポールはフィル・スペクターによるこのアレンジを心底嫌っていたのか、ウィングスや 自分のソロ・ステージで意地になってシンプル・ヴァージョンを演奏し続け、"NAKED"のリリースにより、やっと愛すべき自分の歌を本来の姿で世に出すことが出来たのでしょう。
しかし、これ以外のナンバーについては果たしてどうか。
グリン・ジョンズ版"GET BACK"の音源は、当初から膨大な数のブートレッグの題材となっ てきたし、また"ANTHOLOGY 3"の発表によっていくつかのトラックが公式にも陽の目を見ました。
私も、今はもう手元にありませんが人気ブート"THE ORIGINAL GET BACK ACETATE IN REAL STEREO" をカセット・テープで持っていて愛聴していました。
そのあたりをふまえてあえて言わせていただくと、わざわざ"NAKED"と銘打つような画期的 な発見はないのです。
たしかに耳障りな会話部分をカットしたり、曲によっては逆に装飾を加えたりして"NAKED" は優れたリミックス作品となっていますが、要はフィル・スペクターと「手法」が違う だけの話。
"LET IT BE... NAKED"は彼らが作った本当のオリジナル"GET BACK"のサウンドとは結局違うものになってしまったのではないかという気がするのです。
ただ、素晴らしい点が2点だけあります。
映画に使われたヴァージョンに限りなく近い"DON'T LET ME DOWN"を収録したことがひとつ。
もうひとつ、音質は輸入盤CDに関して言えば素晴らしいものです。(国内盤CCCDは未聴)

周辺リリース・シングル
1969年4月11日 Get back / Don't Let Me Down
1969年5月30日 The Ballad Of John And Yoko / Old Brown Shoe

1970年3月6日 Let It Be / You Know My Name

ABBEY ROAD
SIDE A
01. Come Together
02. Something
03. Maxwell's Silver Hammer
04. Oh! Darling
05. Octopus's Garden
06. I Want You (She's So Heavy)


SIDE B
01. Here Comes The Sun
02. Because
03. You Never Give Me Your Money
04. Sun King
05. Mean Mr.Mustard
06. Polythene Pam
07. She Came In Through The Bathroom Window
08. Golden Slumbers
09. Carry That Weight
10. The End
11. Her Majesty
ABBEY ROAD
レコーディング:1969年7月〜8月 アビー・ロード・スタジオ
プロデュース:ジョージ・マーティン、クリス・トーマス
エンジニア:クリス・トーマス、アラン・パーソンズ
英国発売:1969年9月26日

いよいよ、ビートルズの集大成とも言えるラスト・レコーディング・アルバムの登場です。
このアルバムは、ビートルズがはじめて「プロ・ミュージシャンとしての仕事をした」アルバムと評価され ることがあります。
ビートルズをビートルズたらしめたのは、彼ら(特にジョン・レノン)の「偉大なるアマ チュアリズム」であり、既成概念にとらわれず従来の約束事に頓着しない彼らの、恐れを 知らない実験精神と無鉄砲なまでの革新性が名作の数々を生み出し、シーンを引っ張って きたというのです。
なるほど初期のヒット曲の数々にしても、ルーツとなるR&RR&Bの影響下にありながら、ス トレートなカヴァー曲以外はまさに「ビートルズ・サウンド」と呼べるオリジナリティに 溢れるものであったし、"REVOLVER""THE BEATLES"あたりまでは、まさに 「ビートルズ実験室」とでも呼びたくなるような破天荒な実験的作業を繰り返し、世間の 度肝を抜く作品を世に送り出してきたと言えましょう。
しかし、"GET BACK"で「原点回帰」をコンセプトに自分たちのルーツ・ロック・アルバム 作りに取り組んで見事に失敗した彼らは、今一度ビートルズ伝説を復活させるべく「プ ロのミュージシャン」としてアビー・ロード・スタジオに帰ってきたのです。
"GET BACK セッション"の余韻も冷めやらぬ694月に2人だけでシングル "THE BALLAD OF JOHN AND YOKO" をレコーディングしたジョンとポールが、ジョージ・マーティンに今一度自分たちのアル バムをプロデュースするよう依頼したのが5月のこと。
69年7月〜8月にかけて、実質1ヶ月強の非常に短い期間でこの素晴らしいアルバムを完成さ せました。
"GET BACK"で完膚なきまでに打ちのめされたと思われた彼らが、ここまで集中 力と創造力を発揮できた、その原動力となったものはいったい何なのか。
「もう解散は決定的」という悲観的な見方が大勢を占める中で彼ら自身、グループ存続に一縷 の望みがあったからか、それとももう最後であることをきっちり認識した上で、意義ある 作品を残そうとプロに徹したためなのか、それは定かに分かりません。
このアルバムが発表された同じ時期、あの衝撃的なKING CRIMSONのデビュー・アルバムや LED ZEPPELIN の1stなど、ロックの歴史に刻み込まれる名作が次々と発表されていました。
ひとつ言えることは、今までオリジネーターとして最先端を突っ走ってきた彼らも(相変 わらず大人気グループには違いないにせよ)唯一無二、あるいは孤高の存在ではなくなっ てきたということを彼等自身が良く認識し、謙虚にそして大胆にロックシーンに挑戦した 結果だとは言えないでしょうか。
台頭する新勢力を横目でにらみつつ、またチャック・ベリー等のスタンダードに限らず同 時期のミュージシャンたちの作品にもインスパイアされつつ、ロック・シーンの1グループと して必死に仕事をした結果がこの作品だと言えるでしょう。
サウンドとしては、非常にハードなギター・サウンドが印象に残ります。
B面後半のポールによる叙情的なメドレーや、ジョージの傑作A-2ももちろん素晴らしい 出来ばえだし、本作の代名詞となりうるのはそれらの美しいナンバーであることは重々分かっ てはいますが、A-1A-6のハード・ブルース路線は明らかにジミ・ヘンドリクス の影響下にある実にカッコいいハード・ロック・ナンバーで、ここでの彼らはいち早く70年代のロック・サウンドを提示することに成功しています。

周辺リリース・シングル
1969年10月31日 Something / Come Together

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