THE BEATLES LOVE

ザ・ビートルズ・ラヴ(2006年11月発表作品)

Beatles Love 95年から始まったANTHOLOGYプロジェクト、99年のYELLOW SUBMARINE SONGTRACK、2000年のTHE BEATLES 1、01年のTHE BEATLES LIVE AT THE BBC、03年のLET IT BE... NAKED・・・。この10数年間、あたかもロック・シーンの最前線に現在進行形で存在するバンドであるかのように、ビートルズの新譜が発表されてきました。
あるものは貴重な未発表音源を総棚ざらえ的に掘り出し、あるものは既存の曲に大胆なリミックスを施して新たな魅力を引き出したものなどですが、2006年11月、まったく予想だにしない新作が世に出ました。

THE BEATLES 「LOVE」
この企画はもともと「サルティンバンコ」や「キダム」「アレグリア」などで日本でもおなじみのシルク・ド・ソレイユの公演用の音楽として企画されました。
ビートルズをテーマにしたその公演「LOVE」では、ビートルズの音楽をバックにさまざまな演出の舞台が繰り広げられるとのこと。
この音楽演出・プロデュースを担当したのはジョージ・マーティンとその息子ジャイルス
今回のこの作品にはビートルズ史上はじめて「マッシュ・アップ」の手法が導入され、複数の異なる曲を大胆に組み合わせて聴かせます。のみならず、マッシュ・アップを施さずストレートに原曲のパワー・アップを図ったリミックス曲もあり、組み合わせの妙で1度驚き、既存曲の新しい発見で2度驚く仕上がりです。
では、1曲ずつ聴いてみましょう。
1. Because
小鳥のさえずりに導かれてのオープニングは、ABBEY ROAD('69)からジョンの美しいコーラスワークのア・カペラ・ヴァージョン。
オリジナルのバックにはハープシコードのような音とギターのアルペジオが入っていましたが、このア・カペラで聴くとコーラスの繊細さが余計際立つような気がします。
コーラスが終わるとA Day In The Lifeのエンディング逆回転→A Hard Day's Nightのエンディング「ジャーン!」→The Endのドラム・ソロ、ギター・ソロが矢継ぎ早にたたみ込んで来ます。

2. Get Back
1.のリンゴのドラム・ソロにかぶせるようにせり上がってくる感じでGet Backへ。
最初のジョンのギター・ソロのバックでなにか「チャカポコチャカポコ」繰り返すのが聴こえます。
曲自体はあまり大きくいじらず原曲のドライヴ感を活かして突進しますが、ピアノ・ソロの前あたりからまたもA Day In The Lifeのストリングスが入ってきて、盛り上がりの中曲がバサッと終わって次へ。

3. Glass Onion

わずかな時間の間にHello Good Bye, Magical Mystery Tour, Penny Lane等のパーツが散りばめられています。
エンディングの不気味なストリングスに導かれて次へ。

4. Eleanor Rigby/Julia (Transition)
Eleanor Rigbyはイントロつき。暗いストリングスの旋律ははじめてリアル・ステレオ化され、オリジナルよりもクリアーになっています。
この曲にはコラージュはほとんどなく純粋に聴かせます。
JuliaのアルペジオにまたもA Day In The Lifeほかの旋律がかぶせられ次へ。

5. I Am The Walrus
全曲を通してのリアル・ステレオ・ヴァージョンが初登場。こちらもあまり混ぜ物なくオリジナルを聴かせます。
イントロのエレピやジョンの歌のバックの中音域のストリングスがとてもクリアーになっていて驚き。
イントロのストリングスの入り前にポールのものと思われるカウントも聴こえます。
音全体が横へ大きく広がり、ダイナミックになりました。
エンディングのフェイド・アウトに、ライブ・アクト時代のコンサートから取った観衆の大歓声がフェイド・インしてきて次へ。

6. I Want To Hold Your Hand
"Here they are! The Beatles"のMCに導かれて始まります。
全体をコンパクトにまとめたショート・ヴァージョン('1 "20)。
音像はクリアーになっているものの、最初から最後まで観客の大歓声がかぶせられてライヴ仕立てになっている他はほぼオリジナルどおり。Bメロの"And When I〜"の部分は前半が1コーラス目(ユニゾン)、後半が2コーラス目(ハモり)。

7. Drive My Car/The Word/What You're Doing
本アルバム中の最高傑作です!(Hiropon選定)
RUBBER SOUL('66)からのDrive My Car, The Wordと、FOR SALE('64)からのWhat You're Doingを見事に合体させました。正直こりゃヤラれたなあ・・・。
"Baby You Can Drive My Car"のバックでSavoy Truffleのブラス・セクションが入り、間奏は意表をついてTaxmanのソロが飛び出してくるかと思えば、いつの間にかDrive My Carのソロに代わっています。
ギター・ソロが終わるとWhat You're Doingのメロディが。でもバックにはDrive My Carのピアノが!
"It's The Word Of Love""Beep Beep, Beep Beep Yeah!"が続くところはゾクゾクしますね。
私はCDで気に入ったところは曲の途中でも何度も繰り返して聴いてしまうんですが、ここの部分は何度も繰り返しました。

8. Gnik Nus
Sun Kingの逆回転ヴァージョン。
オリジナルのバッキングは外され、Within You Without Youのバックのドローンがかぶせられています。
なんだかまったく違う曲みたいですね。

9. Something/Blue Jay Way (Transition)
Somethingはほとんどいじらずにオリジナルのままリミックス。
当時、ジョージ・マーティンとビートルズがどれぐらいの比率でアイデアを出し合ったのかは定かにわかりませんが、この曲のストリングス・アレンジは本当に美しい。
38年が経過しているとは思えない曲です。
Blue Jay Wayの摩訶不思議なバッキングの音の後ろにはNowhere Manの旋律が聴こえます(これだけはちょっと合ってないかな・・・)。

10. Being For The Benefit of Mr. Kite!/I Want You (She's So Heavy)/Helter Skelter
エンディングまではBeing For〜をストレートに聴かせます。
今から考えるとこの曲どうやってアレンジを作って行ったんですかね。凝った作品です。
"And tonight Mr. Kite topping the bill!"の叫びとともにI Want Youのエンディングのギター・リフが嵐のように降り注ぎ、後方にはHelter Skelterのポールのシャウトが聴こえます。

11. Help!

この曲は一切アレンジをいじっていない純粋なリミックス。サウンドがグッと厚みを増しています。
最初に買ったビートルズ・アルバムのタイトル曲ですからねえ・・・。やっぱいいですね。
サビのバックのアコギの弦の音までしっかり聴こえます。

12. Blackbird/Yesterday
BlackbirdのバッキンのみをイントロにしてYesterdayへ。
こちらもYesterdayに入ってからは原曲をそのまま聴かせますが、リミックスによりストリングスはより滑らかに聴こえますね。

13. Strawberry Fields Forever
この曲は公式ヴァージョンではなく、オノ・ヨーコが提供したリハーサル・テイク、「アンソロジー2」に収録されていたテイク1、完成テイクの3つをつないだ力作。
キーはぴったり合っていますが、ジョンの声色はテイクが代わるたびに微妙に変わります。
リンゴのドラムが引っ張るエンディングに盛り込まれた音は多彩で、Sgt.Pepper'sのブラス、In My Lifeのピアノ、Penny Laneのホルン、Piggiesのハープシコード、Hello Good Byeのコーラスでエンディング。

14. Within You Without You/Tomorrow Never Knows
Within You Without Youのドローンの音色にTomorrow Never Knowsの歌が乗ったオープニング。
かと思えば1ヴァース歌ったところで逆にTomorrow Never Knowsのリズムに乗ったWithin You Without Youの歌と早変わり。
「インド風の曲」という共通点しかなかったかなりタイプの違う曲ですが、こうやって聴くとピッタリハマっています。

15. Lucy in the Sky With Diamonds
最初はイントロが切れ切れに流れてきます。歌が入る前にどこから持ってきたのかバスドラムが鳴ります。
サビのバックで聴こえているのはBaby You're A Rich Manのメロトロンの音か、Tommorow Never Knowsのテープ・ループの音か、いずれでしょうか・・・。
エンディングは間違いなくTommorow Never Knowsのテープ・ループですね。

16. Octopus's Garden
Good Nightの優しいストリングスにOctopus's Gardenの歌が重なって始まります。
そしてすぐにオリジナルのOctopus's Gardenへ。
最初はゆっくりとしたGood Nightに合わせているため(キーを変えずにスピードだけ調整)やや間延びした印象ですが、Octopus's Gardenのリズムが入ってきてからはあの軽快な曲がよみがえります。
エンディングでSun Kingのイントロの旋律が現れます。

17. Lady Madonna
Why Don't We Do It In The Road?のリズムセクションにLady Madonnaの紙笛の音、サックス、See How They Runのコーラスと続いて軽快なピアノの音が繰り出されてきます。
ドラムはブラシでスネアをシェイクするジャズっぽい方を終始続けて流し、ファンキーな16ビートの方は出てきたり出てこなかったりとメリハリをつけています。途中で意表をついてHey Bulldogのリフとブルージーなギター・ソロが登場。エンディングではANTHOLOGY 2ヴァージョンで聴けたイカしたサックスのフレーズが聴けます。

18. Here Comes The Sun/The Inner Light (Transition)
Within You Without Youのドローンとタブラに乗ってSun Sun Sunのコーラス。
そこへおなじみのギターのアルペジオのイントロが乗ってきます。
Little Darlinのコーラスがオリジナルよりぐっと鮮明に聴こえます。
エンディングではThe Innner Lightの美しいメロディが曲を締めます。

19. Come Together/Dear Prudence/Cry Baby Cry (Transition)
Come Togetherはグッとヘヴィさを増して登場。
ほとんど原型を崩さず、音質のみ向上させています。
"Come"というジョンの悩ましい声がより迫力を増しています。
この曲のエンディングのリフの部分からDear Prudenceのギター・リフが重なり、Cry Baby Cryのポールのパートへと移ります。

20. Revolution
7.と並ぶこのアルバム最大の収穫はこのRevolutionかも。
ショート・ヴァージョンながらこれはマッシュアップではなく、完全なオリジナル・パワーアップ。
従来の音源では片側チャンネルにまとめられていたため1本にしか聴こえなかったジョン、ジョージの2本のバッキングが左右に分けられ、完全なツインギター・サウンドになりました。粘っこいリズム・ギターが2本きっちり別のリフを刻んでいるのが鮮明に聴こえます。

21. Back In The U.S.S.R.
2曲続けてハードなロック・ナンバーが続きます。
イントロのフロアの連打がオリジナルに比べてぐっと厚みを増してくっきりと聴こえます。
イントロにエンディングのギターが被せてあるぐらいで、あとはオリジナルのパワー・アップ。

22. While My Guitar Gently Weeps
ANTHOLOGY 3収録のアコースティック・ヴァージョンに新たにストリングスを追加して仕上げてあります。
ジョージの声がとてもきれいに生々しく聴こえます。

23. A Day In The Life
ジョンがブースに指示を送る会話から始まるANTHOLOGY 2で登場した音源が使われています。
中間部でテンポ・アップする部分では、オリジナル・ヴァージョンにあった低い「1,2, 1,2,3・・・」というカウントの声が消されています。

24. Hey Jude
この曲もリミックスでパワーアップしてあるだけでマッシュ・アップの手法はとっていません。
オリジナルではややドタバタした印象だったリンゴのドラムの入りがスッキリとバランスよくなっている印象です。
エンディングで、ドラムの手拍子、コーラスだけになり、そこにベースが加わり、またバンドとオーケストラが戻ってくると「1,2,3,4」のカウントとともにショウのエンディングとも言うべき次の曲になだれ込みます。

25. Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)

オリジナルとほぼ同じパワーアップ版。
エンディングのポールによる感謝の叫びはちょっと奥へ行ってしまっています。

26. All You Need Is Love
この曲は99年にピーター・コビンがリミックスを手がけたYELLOW SUBMARINE SONGTRACKでも目玉となった曲でしたが、今回、もともとのオリジナルを手がけたジョージ・マーティンの手によって再度装いをあらたに登場です。
サビのAll You Need Is Loveの後ろで転がるようなピアノ旋律がはっきりと聴こえます。
ピーター・コビンのリミックスは、当時はじめて聴いた時点ではおそらくこれ以上のミックスはありえないだろうと思えましたが、あらためて今マーティンのこのヴァージョンと聴きくらべてみると、コビンの方は荘厳にしようとしすぎてかえってこの曲が本来持っていた華やかさのようなものが薄れてしまっていたように思えます。
マーティンのミックスはリズム隊、特にベースの音がクッキリと前に出てきています。
エンディングではTicket To Rideのイントロのギター、Baby You're A RichmanSgt. Pepper'sなどが聴こえ、オリジナル・ヴァージョンではGreen Sleevesが入ってくる位置でGood Nightのストリングスが挿入されてきます。
そしてそのストリングスをバックに、生前のジョンが他のメンバーと楽しそうに話す声が聴こえてきてこの曲もアルバムも終わりを迎えます。

Love booklet

このアルバムには、おそらく賛否両論渦巻くのではないかな・・・。
ANTHOLOGYの時にも「オリジナルを聴かなきゃダメ」といった論調の記事がありましたし、今回ここまで大胆な曲のパッチワークを聴かされて、「こんなのビートルズじゃない!」と言いたい人がいたとしてもまったく不思議ではありません。
ただ最初にも書いたように、私自身は30年来のビートルズ・ファンとして、とても無邪気にワクワクしながらこのアルバムを楽しめました。
これからビートルズに触れる世代の人たちにも、ANTHOLOGYとはまた別の意味での「入門編」として聴いてもらってもいいと思えます。
楽しむネタはいくつでもある方がいい、という考え方なもんでね(笑
最後にSir. ジョージ・マーティンにひと言だけ。
「こ、これだけできるんなら、早く!早く、あなたがご存命のうちにオリジナル・アルバムのリミックスを〜!! ・・・うぉ〜!! ・・・ヲ〜!!」
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