Various Review
Vol.12
新井英一を語る時、「在日コリアン」などという前置詞にこだわる必要はまったくない。 21歳から米国で放浪生活を送り、帰国後に内田裕也のプロデュースによりアルバム「馬耳 東風」(1979年)でデビュー。 1986年に亡父の故郷、韓国・清河(チョンハー)を訪れ、その旅の思い出を『清河への道 〜48番』として1995年に発表。 この曲は、TBS「筑紫哲也ニュース23」のエンディングテーマ曲に選ばれ、話題になる。 アルバムは第37回日本レコード大賞「アルバム大賞」を受賞。 そんな新井が、日本の古い名曲を歌い上げたカヴァー・アルバムが今回ご紹介する「オー ルドファッション・ラヴソング」だ。 各曲についての能書きはもはやまったく必要なかろう。 解説書の類を読む必要もとりあえずない。(もちろん読んだっていいんだけどね) すべての楽曲は新井(ヴォーカル、ギター、ハープ)と高橋望(ギター)の2人だけで演奏 されている。 歌のメロディを引き立てるバックの演奏(アレンジ)がかき鳴らされるギターだけ、という このアルバムは、「サウンド」なんて言葉は吹っ飛ばす「生臭い『歌』」のアルバムだ。 メロディをバンドのアンサンブルで効果的に聴かせる、なんて手法とは対極に位置するこ のアルバム。 新井のしわがれた荒っぽい声と、シンプルなギターのみのバッキングで構成された楽曲群 は、ただただ「歌」を聴かせるためだけに用意されたものだ。 聴き終わって、このアルバムを「論評」なんてするはできないことに気づいた。 「『歌』を聴いた。死ぬほど聴いた。」に尽きる。 トム・ショルツがボストンで提示した音楽も、「音楽」だ。 CDに刻まれて多くの人を楽しませる。 でも、この新井の音楽も「もうひとつの音楽」だ。 あまりにナマだ。生臭い。 癒されたい人は聴かないほうがいい。 このアルバムはそんなことのためにあるんじゃない。 「歌」に打ちのめされたい人だけ、この世界に身を投げろ。 (文中敬称略) <了>
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