Various Review Vol.5

GENE SIMMONS
GENE SIMMONS
PAUL STANLEY
PAUL STANLEY
ACE FREHLEY
ACE FREHLEY
PETER CRISS
PETER CRISS

KISS SOLO ALBUMS

KISS GENE SIMMONS
KISS PAUL STANLEY
KISS ACE FREHLEY
KISS PETER CRISS

1978年9月18日発表作品
Polygram / Casablanca

"You wanted the best, and you got the best! The hardest band in the world KISS!!"
エアロスミス、クイーンとならび、「ヒット・チャートも賑わすハード・ロック・バンド」 として1970年代のポップス音楽界に君臨した異形の集団KISS。
究極の企画モノ・バンドとして、初のライブ・アルバム"KISS ALIVE!"(邦題「地獄 の狂獣」1975年10月)の大成功以来、実に緻密に計算された 商業主義色の強い活動を続け、コミックの題材になったり、フィギュアを発売したりと、 単なるロック・バンドの枠を超えた存在となっていた。
音楽面でも、"ALIVE!"以降は出すアルバムすべてがメガ・ヒット、特に6枚目の スタジオ作品"LOVE GUN"あたりになると、その存在は「ハード・ロック・バンド」 というより「ビッグ・アイドル・グループ」として世界中で熱狂の嵐を巻き起こしていた。
しかしその絶頂期、1977年の2作目のライブ作品"KISS ALIVE Ⅱ"をリリースし た後、彼らはグループとしての活動を一旦休止することを発表する。
この活動休止のいちばんの理由は、ジーン・シモンズ、ポール・スタンレーの2人の中心メ ンバーと、エース・フレーリー、ピーター・クリスの軋轢が原因とされている。
ジーン、ポールの2人は、グループの看板としてKISSのさらなる商業的成功を願ってせっせと 働くことに何よりも喜びを感じていたが、他の2人はそうはいかなかったのだ。
自分自身の音楽に対する欲求、またエースのアルコール、ピーターのドラッグ等、グルー プを蝕む様々な問題。
そんな現状を打破すべく彼らは、4人のメンバーのソロ・アルバムを同時(1978年9月18日) にリリースするという業界初の試みを行う。
このソロ・アルバムは、少なくともジーン、ポールの2人にとってはあまり心から望んだも のではなかったらしい。
なにより彼ら2人は、KISSの活動そのものを自らの音楽的発露としていたし、ソロ作品の 内容にしても、ジーンはお遊びに近いし、ポールのそれはほとんど「KISSの曲を自分名義 で演った」という内容だ。
では、他の2人のアルバムはどうかというと、これがちょっとした傑作なのだ。
4人の作品をそれぞれちょっと聴いてみよう。

GENE SIMMONS GENE SIMMONS  Produced by Sean Delaney and Gene Simmons
01. Radioactive
02. Burning Up With Fever
03. See You Tonite
04. Tunnel Of Love
05. True Confessions
06. Living In Sin
07. Always Near You (Nowhere To Hide)
08. Man Of 1,000 Faces
09. Mr. Make Believe
10. See You In Your Dream
11. When You Wish Upon A Star
ジーン・シモンズのソロ・アルバムは遊び心満載の1枚。
基本的にKISSではできないサウンドを実現することに比重が置かれている。
たとえば04や08あたりは、いわゆるハード・ロック・サウンドとはまったく異質なミュー ジカル・ナンバーのような曲。
正直あまり似合わないバラード03、09あたりは当時のキッスでジーンが歌うところは想像 できない。
しかしその一方で、さすがは"The hardest band in the world"の絶対的なフロント・マン、 バリバリのハードロック・ナンバーもちゃんと披露している。
10はKISSの"ROCK AND ROLL OVER"に収めたオリジナル・ヴァージョンがあまり気に入らな かったらしいジーンがここがチャンスとばかりにリメイクした傑作。
リード・ギターはチープ・トリックのリック・ニールセン、ガラガラ声で徹頭徹尾叫んで いるのはマイケル・デ・バレス。
11は説明不要の名曲、ディズニーの「星に願いを」。
お茶目というより悪ノリに近い選曲だが、アルバムを締めるのに不思議とピッタリはまっ ている。
アルバムそのものもさることながら、前述の2人をはじめ、当時の恋人シェール、ボブ・シ ーガー、ジョー・ペリー、ドナ・サマー(!)など豪華なゲスト陣の方が話題になった。

PAUL STANLEY PAUL STANLEY  Produced by Paul Stanley and Jeff Glixman
01. Tonight You Belong To Me
02. Move On
03. Ain't Quite Right
04. Wouldn't You Like To Know Me
05. Take Me Away (Together As One)
06. It's Alright
07. Hold Me, Touch Me (Think Of Me When We're Apart)
08. Love In Chains
09. Goodbye
フロント・マンというより「看板スター」という表現がピッタリ来るKISSのメイン・キャ ラクター、ポール・スタンレーのソロ・アルバムはひとことで言ってしまえば「コミカル な部分を一切排したKISSサウンド」である。
はじめて聞いたときの感想は「え? KISSじゃん。」
KISSの明快なロックン・ロールから、舌べろべろ、大股開きでステージ徘徊のジーン・シ モンズが担っていた部分をすっぱり取り去った後に残ったのは、メロディアスで哀愁漂う ギターを聴かせるポールの世界。
基本線はバリバリのハード・ロックなのだが、「静寂を聴かせる」とでも言うべき03のよ うな静かなナンバー、今もファンに愛聴されているであろう名作バラード07が美しい。
バックを固めるメンツはジーンほど豪華ではないが、ことあるごとに駆り出されるボブ・ キューリック(後にKISSのメンバーになるブルース・キューリックの兄)が全面的にバッ ク・アップしているほか、05ではカーマイン・アピスが参加してドラムを叩いている。( これがまた、期待にたがわぬスッゲェプレイなんだ。)

ACE FREHLEY ACE FREHLEY  Produced by Eddie Kramer and Ace Frehley
01. Rip It Out
02. Speedin' Back To My Baby
03. Snow Blind
04. Ozone
05. What's On Your Mind?
06. New York Groove
07. I'm In Need Of Love
08. Wiped Out
09. Fractured Mirror
異論は多々あろうが、このKISSのソロ・アルバム4枚、あえて判定するとすれば、エース、 ピーター組の圧勝だ。
本人たちは何も優劣を競おうって気はさらさらなかったろうが、ソロとしての可能性の探 求を心から求めていた2人のほうが、さほどでもなかった2人の作品より、結果的に数段テ ンションの高い、有意義な作品を世に生み出した格好となった。
エースの作品は店主にとって、KISSのソロ・アルバムの中でというより、あらゆるハード・ ロック・アルバムの中でも5本の指に入れて良いほどのフェヴァリットな1枚。
アルバム全体が、当時のキッスに通じるポップで軽いハード・ロックン・ロールで埋め尽 くされているのだが、ひとつの大きな特徴は「哀愁」をまったく感じさせないこと。
そこの部分はポール・スタンレーに任せて俺は俺の道を行くぜ、とばかりに「スペース・ エース」の魅力全開だ。
(それにしても相変わらずヴォーカルは味わい深いがヘタだ・・・。)
このアルバムでは、後にピーター・クリスが勤務不可能な状態になった時期、KISSの"DYNASTY", "UNMASKED"でかなりの曲をプレイしたアントン・フィグがほぼ全編でドラムスをプレイ。
プロデュースはKISS本体の"ALIVE!","ROCK AND ROLL OVER","LOVE GUN"を手がけ、KISSと 切り離して語ることのできないエディ・クレーマーが担当。
ラス・バラッドのカヴァー06はKISSのステージでも演奏された。

PETER CRISS PETER CRISS  Produced by Vini Poncia
01. I'm Gonna Love You
02. You Matter To Me
03. Tossin' And Turnin'
04. Don't You Let Me Down
05. That's The Kind Of Sugar Papa Likes
06. Easy Thing
07. Rock Me, Baby
08. Kiss The Girl Goodbye
09. Hooked On Rock And Roll
10. I Can't Stop The Rain
4作品の中でもっともKISSらしくない作品である同時に、ピーター・クリスの魅力を満載し た快作だ。
考えてみれば、グループに対する不満の度合いが最も高いメンバーが、グループのサウン ドから最もかけ離れた作品を発表したのは当然といえば当然か。

ポップなアルバムを作らせたらピカいちのプロデューサー、ヴィニ・ポンシアがプロデュ ースを担当した本作はひとことで言うならばオールド・スタイルのロックン・ロールだ。
このアルバムをまるまるロッド・スチュアートのソロ・アルバムに仕立てても違和感がな いくらい、懐かしい古きよき時代のサウンドで固められている。
ハッキリ言って、KISSの中でこそ個性的なキャラクターで人気を博しているものの、ピー ター・クリスが一線級のヴォーカリストだと思っている人はあまり(というかほとんど) いないだろう。
確かに"BLACK DIAMOND"や"NOTHIN' TO LOSE"、"BETH"や"HARD LUCK WOMAN"等、彼でなけれ ば出せない深い味わいのナンバーもKISSの魅力のひとつではあったが、少なくとも本体を 差し置いて商業的に成功を収められるほどのものではない。
しかし、このアルバムの出来に気を良くした彼は、その後の"DYNASTY"では自分の持ち歌以 外ではプレイせず、結局1980年にグループを脱退する。

2002年で正式に解散するとかしないとか、そんな話もあったが今のところKISSは解散して はいないらしい。
もっとも、グループの継続とか解散とかいうことはもはや彼らの「活動の一部」でしかな いような様相も呈してきた。
オフィシャル・サイトでは相変わらず各メンバーのコメントや、イベントの告知や多数の マーチャンダイズ商品の販売が行われており、よしんば「もうライブもやらないし、レコ ードも作らないよ。」と宣言したところで「KISSビジネス」自体はもう永久に終わらない んじゃないか、とさえ思えてくる。
1997年に満を持して再結成した後、しばらくはオリジナル・メンバーで順調に活動してい た彼らだが、まずピーター・クリスが脱退。(脱退したあともオフィシャル・サイト上で ジーンのインタビューに答えてたりするあたりは不思議だが。)
ピーターが戻ってきたと思ったら今度はエースが脱退、と相変わらず中心メンバー以外の 2人は気まぐれを繰り返している。
その都度、旧メンバーのエリック・シンガーや、エースの大ファンだったというトミー・ セイヤーなどを加えて活動を続けているものの、熱狂的なファン以外にはそろそろ飽きら れてきたか。
今回取り上げたソロ・アルバムは、大人気グループのメンバーの作品にしては商業的にも さしたる成功は収められず、ロックの歴史の中にいずれ埋もれてしまうだろうが、若かった 彼らがグループの存続の危機に見舞われた時の、必死のあがきが感じられていとおしい。
<了>