The Beatles Movie Review 1

YELLOW SUBMARINE(1968)

■制作:アル・ブロダックス、監督:ジョージ・ダニング、ジャック・ストークス、原作:リー・ミノフ、脚色:アル・ブロダックス、ジャック・メンデルスゾーン、エリック・シーガル、デザイン:ハインツ・エーデルマン、音楽:ジョージ・マーティン、特殊効果:チャールズ・ジェンスキンス
■1968年度作品、デラックス・カラー(86分)、配給:ユナイテッド・アーティスツ
■初公開:1968年7月18日(ロンドン・パビリオン劇場)
「レット・イット・ビー」のDVDは未だに出ない。
「4人はアイドル」は1回DVDになったがひどい出来栄えで、その後リニューアル版は出されず、新品、ユーズドも含め入手にはかなり骨を折る状態だ。
ビートルズの劇場映画の中で「ヤア!ヤア!ヤア!」「イエロー・サブマリン」だけは改訂版が出され、今でもAmazonで容易に入手できる。
特に「イエロー・サブマリン」は人気だ。
映像とは別に1999年、「イエロー・サブマリン・ソングトラック」が発売され、この映画に使われた名曲たちがまったく新しい「21世紀ヴァージョン」にお色直しされて大人気を博したことも、この映画の息の長い人気に貢献していると言えよう。

店主が小学生だった頃、学校で「イエロー・サブマリン」の鑑賞会が行われたことがある。
友達の一人がビデオに録ったものを学校に持って来て、先生に頼んで会議室のビデオで観たのだ。
(物分りのいい先生で助かった。)
キラキラと輝くようなカラフルな色使いで描かれたペパーランド、対照的に、ビートルズのメンバーが住むリヴァプールの街はくすんだドンヨリとした色使いで描かれていた。
それまで観てきた(日本製の)アニメとはまったく違うキャラクターや動き、色使い・・・。
かといってディズニーのようなアメリカ製アニメともまったく違う、きらびやかでもどこか冷たい、物憂げな感じ・・・。
子供心にとても引き込まれる作品だった。
その後、高校時代に初めて我が家にビデオデッキが登場して以降、レンタルビデオ店のダビング・サービス(今となっては考えられないサービスだが・・・)でビデオを手に入れた店主は、繰り返し繰り返し、それこそテープが擦り切れるまで観た記憶がある。
2002年の再発DVDももちろん買った。
このDVDでは、公開当時カットされていた「ヘイ・ブルドッグ」の使用シーンも復活し、ついに「完全版」として我々の前に現れたこの作品を、最新の技術でリマスターされたきれいな画面で観ていると、かつて子供の頃に胸ときめかせたあの感覚が鮮やかによみがえってくる。
海底の楽園ペパーランドに住む人たちは、平和と音楽を心から愛する人々。
しかしある日突然、音楽がなにより嫌いなブルーミーニーが大軍を率いてこの楽園を襲う。
逃げ惑う人々・・・。
ブルーミーニーはアンチミュージック・ミサイルや青いリンゴの爆弾で人々をおどし、色鮮やかな景色が美しかったペパーランドは、恐怖のあまり色も音もない世界になってしまった。
提督の命を受けたオールド・フレッドは、この危機を救う人間を探すべくイエロー・サブマリンに乗って地上に出る。
そこで出会ったのがリンゴ。
リンゴはオールド・フレッドをビートルズのメンバーに紹介し、4人はフレッドと一緒にイエロー・サブマリンに乗り込んで、ブルーミーニーと対決するためにペパーランドへ・・・。

荒唐無稽なストーリー。
今、実在のロック・アーティストを題材に、こんなストーリーでアニメが作られることはあるまい。
しかし、このハチャメチャなストーリーも、この映画独特の美しい画面と合わせて観ていくと、メルヘンとして実に完成度の高いものだと感じるから不思議である。
本作のアニメーション制作は、フィルムの長さだけで言えば当時ディズニーよりも多くのアニメを作ってきたといわれるキング・フィーチャーズ社が担当している。
この映画では、まったく異なるタッチの画が複雑に組み合わされており、暖かさと肌寒さ、きらびやかさと荒涼とした雰囲気が絶妙なタッチで表現されている。
今回は、特にその画の美しさに焦点を当てて、場面ごとに観ていきましょう。

オープニングで登場するこのシーン。
6人の男性の帽子が、それぞれ虹の出口になり、美しいアーチが描かれる。
バックの空はなにもない白。
通常のアニメから背景を取り除いたようなペタッとした奥行き感の希薄な仕上がりになっている。
これは作品全体を通じて多用される手法で、すべてを色で埋める従来の(現代の?)アニメーションとは、かなり印象を異にする。
カラフルなベタ塗りの虹や人物と、水墨画のように滲ませた地面の色合いとが上手く組み合わされている。
小鳥がさえずる木々。
ヨーロッパの絵本によくあるような、細い線と鮮やかな色の組み合わせ。
あえて滑らかな動きをさせず、小鳥がツピツピと鳴く様子を上手く表現している。
ここでも空は合えて色を入れず。
ペパーランドの様子。
大きな胸像の前で楽しそうに語らう人々。
バックにはいつも美しい音楽が流れている。

人々の服装も含めて、ペパーランド全体がとても色鮮やかな場所だ。
みんなとても楽しそう・・・。
これから数分後に世にも恐ろしい出来事に襲われるとは、まだ誰も気づいていない。
崖の上に現れたブルーミーニーの大軍。
冷たい色の崖の上に、真っ青ないでたちのミーニーズがずらり。
ミーニーズは、アンチ・ミュージック・ミサイルを発射!
突然の襲撃に逃げ惑う人々。
平和なペパーランドは、あっという間に大パニックに!
恐怖のあまり、色を失ってしまったペパーランド。
色もない、音楽もない殺伐とした風景になってしまった。
NHKの「みんなのうた」で悲しい歌が採り上げられる時などにぴったり合いそうな雰囲気の画。
ここでイエローサブマリンが初登場。
ペパーランドの人々の先祖は、遠い昔、このイエローサブマリンでこの楽園にたどり着いたのだ。

オールド・フレッドは、提督の命を受けてこのイエローサブマリンに乗り込み、助けを求めて出発する。
ビートルズのメンバーが住むリヴァプールの街に朝が来た。
写真を下敷きにしたリアルな画。
日が昇るにつれ、手前の工場がアップになり、工場の煙突からいっせいに煙が出る。

ブルーミーニーに襲われる前のペパーランドが、原色の鮮やかな世界観で満たされているのに対し、このリヴァプールの風景はあまりにも現実的だ。
"Eleanor Rigby"の流れる場面の画のひとつ。
ビートルズやペパーランドのカラフルな絵柄に対し、暗い色調の街並み、無表情な登場人物。
近代絵画を思わせるシュール・リアリスティックな技法で描かれている。
リンゴがおまわりさんと話すシーン。

「イエローサブマリンに追われてる、って言ったら信じる?」
「いや、信じられん!」
「やっぱりね・・・。」
ジョージの部屋。
バックに流れるBGMは"Love You To"
ジョージの周りにある青い枠の物体は、敷物なのか台なのかよく分からないが、その中には牛を操る農民、花が咲く瞬間などが実写フィルムではめ込まれている。
これも、この映画のそこかしこで使われる手法で、実写映像や写真が多用されている。
「科学の海」(Sea Of Science)での画。
バックに流れるのはジョージ作の"Only A Nothern Song"
メンバー4人の顔を陰影を強調して描いたこの絵の手法も、他の場面にもちょくちょく登場する。
曲のイメージともあいまって非常に幻想的だ。
ビートルズと行動を共にするジェレミー(ヒラリー?ブーブ?フッド?)。
ひとりで喋りながら自分の胸像を作っている。
ジョンに「ひとりぼっちのあいつ」なんか歌われちゃったけど、リンゴに誘われていっしょにペパーランドへ。
「頭の丘」に着いた一行。
丘一面に頭がたくさん。
"Lucy In The Sky With Diamonds"が流れるシーンの画。
本作の中でも、もっとも個性的で他にはない作風。
ペパーランドに乗り込んだビートルズは勝利のパレード。
逃げ惑うブルーミニーの大軍。
最後に仲直りしたブルーミーニーの頭の上には青い鳥が。
ここからジョージの"It's All Too Much"へ。
最後の最後で登場する本物のビートルズ。
この後俳優業に目覚めていくリンゴだが、ここでの台詞回しはこっ恥ずかしい限り(笑
この後、ジョンが望遠鏡で新しいブルーミーニーの襲撃を見つけ、全員で歌う。
曲は"All Together Now"

本作が最初に公開された時、作品としての評価はそれなりに高かったものの、興行としては必ずしも大成功とはいえなかったらしい。
(日本では同じアニメ映画の「チキチキ・バンバン」との2本立てだった。)
しかし現在では、ある意味ビートルズ映画の中でもっとも人気のある代表作である。
それは先に述べたとおり、映像ソフトの改訂のされかたや、「ソングブック」の登場にも見て取れる。

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