魚料理

 北海やバルト海沿岸に住む以外のドイツ人が今日のように魚を比較的食べるようになったのは、ひとえに冷蔵ないし冷凍技術が進歩したためで、昔は鮮度を保つために蜂蜜づけにして運ぶといった、にわかには信じられない話があるくらいである。一方、魚料理が健康に良いという認識はドイツ人に共通しており、肉料理に比べてはるかに脂肪が少ない点や、逆にビタミンが豊富なこと、あるいは豊富なヨードを含むニシンが腫瘍になるのを防ぐといったことが料理の本にも書かれている。事実、内陸部に住むドイツ人にはヨード不足による甲状腺腫などの病気が多い。

 もちろん川魚は内陸部でも手に入るため、シューベルトのピアノ五重奏で有名な鱒(Forelle)、あるいは鯉(Karpfen)料理は昔からあったが、これらも今日では養殖や輸入に頼っている。特に鯉料理はクリスマスや大晦日のごちそうの一つである。
 最も有名な川魚料理にフォレレ・ブラウ(Forelle blau)がある。かなり簡単な料理だが、とりたての新鮮な鱒を手に入れることが不可欠の条件で、清流が流れるシュヴァルツヴァルトやアルプスに近い地方以外では美味しいものは食べられない。塩とワインと酢を入れた水を沸騰させ、そこに内臓を取り出した鱒を入れて約10分間弱火で煮る。温めた皿の上にパセリとレモン、溶かしバターをからめた塩ゆでジャガイモを添える。飲み物は白ワインに限る。
 鯉にもフォレレ・ブラウと似た料理としてカルプフェン・ブラウ(Karpfen blau)があり、また切り身を細切りにした人参と煮たり(Karpfen Hausfrauen-Art)、シュレージエン風と呼ばれる人参や香草で作ったスープでゆっくり弱火で煮る料理(Karpfen schlesisch)など、一般的にはスープで煮込む料理が多い。

 海水魚の代表はニシン(Hering)で、それも酢漬けが多い。例えばオードブルやビールのつまみとして最適の酢漬けニシン巻き(Rollmöpse)は、三枚におろして骨を抜いた新鮮なニシン(あるいは塩漬けの場合は塩抜きする)の身をよく洗って水気をとっておく。次に漬け汁を作るが、これはジュニパー・ベリー、チョージ、オールスパイス、コショー、月桂樹の葉等をすり鉢で摺るか叩いてつぶし、酢を入れた水の中で一度沸騰させ、さらに5分ほど弱火で煮た後に室温にまで冷ましたものである。ニシンの身を皮を下にしてまな板に並べ、練り芥子を塗った上にケッパーをふりかけ、さらに輪切りのタマネギをのせる。四つ割りにしたきゅうりのピクルスを芯にしてこのニシンの身を巻き、爪楊枝で止める。後は平らなガラスの容器に輪切りのタマネギを敷き、上にニシンを二段に重ねて並べ、漬け汁を注いで容器をアルミホイールで覆って冷蔵庫で5、6日寝かせる。

 ニシン料理はこれ以外にも酢漬けニシンとタマネギのワインまたはサワークリーム和え(Marinierter Hering)や、他の料理の添えや軽食としても好んで食べられる様々な種類のサラダがある。

 また、北ドイツ人が非常に好んで食べるものにウナギの薫製(Räucheraal)がある。市場や魚屋で買い求めた薫製のウナギをライ麦パンとともに手で食べるが、これに合う飲み物はシュナップス(Schnaps)で、レストランによっては、食べ終わるとボーイが脂と臭いを洗い流すために、この酒を手にかけてくれる。

 もちろん魚料理はこうした簡単なものだけでなく、カレイ、ひらめ)、鱈、鮭等が煮たり焼いたりソテーにしたり、あるいは白身魚はつみれ(Klößchen)にして食される。