肉料理

ⅰ.煮込み料理

 牛や豚や子牛を使う肉料理の種類は非常に多いが、特に家庭料理の中で最も親しまれ、主婦が腕を振うのが煮込み料理で、例えば典型的なものにザウアーブラーテン(Sauerbraten)がある。ドイツ語のbratenには単に焼く(あるいは蒸し焼きにする)場合と、炒めてから煮込む場合の二つの意味があるが、この場合は後者の方である。
 つまり、これも地方によって少しづつ異なり、それぞれライン風やシュヴァーベン風などの地方名が付されているが、基本的にはワイン・ヴィネガーやワインにジュニパー・ベリーなどの香料とともに数日つけ込んだ骨なしの牛の塊肉を、タマネギや人参等とともに炒めて焼き色をつけた後、深鍋に入れてブイヨンを加え、オーブンかコンロでゆっくり煮込む。野菜と煮込むのがこの料理の特徴で、肉も牛以外に子牛や豚等が使われる。煮込み料理には、さらに薄切りの肉でベーコンやタマネギなどの野菜を巻き、やはり炒めて煮込むルーラーデ(Roulade)や、肉や野菜を強い香辛料入りのソースで煮込んだラグー(Ragout)、あるいはレバーなどの内臓を使ったもの等があり、これも地方によって料理法が少しづつ異なる。

  煮込み料理には塩漬け肉(Pokelfleisch)やこれを燻製にしたものも使われ - 特に骨付きの豚のあばら肉(=ロース)を塩漬けにして燻製にしたものはカスラー(KaßlerまたはKasseler)と呼ばれ、どこの肉屋でも売られている - 、これらも非常に好まれる。ともにタマネギなどの野菜を加えて煮込み、ザウアークラウト(Sauerkraut)を添えるか、あるいはカスラーの場合は一緒に煮込むこともある。

 野菜を加えないため煮込み料理とは言えないが、代表的な料理の一つにアイスバイン(Eisbein)がある。塩漬けの豚のすね肉(骨付き)を茹でたもので、肉を10日から2週間ほど塩漬けにし、たっぷりの湯で3時間ほど茹でる。堅いすね肉もこれによって柔らかいハムのようになり、ビールがよく合う。付け合わせは茹でたジャガイモとザウアークラウトと相場が決まっている。ちなみに、ザウアークラウトは軽く塩漬けにした(秋の)キャベツを発酵させたもので、これ以外にもスープに入れたり、ソーセージの付け合わせにする。

 一般的に料理の付け合わせはパンではなく、様々に調理したジャガイモや麺類で、こうした付け合わせにも地方色が豊かに現れている。つまり、穀倉地帯のドイツ中部とラインおよびドナウ川流域では小麦粉を使ったもの、その他の地域ではジャガイモが中心になり、さらに小麦粉を使うものでも団子状のクレスヒェン(Klößchen)やうどん状のシュペツレ(Spätzle)、また100種類以上もあるジャガイモに至っては、単に塩ゆでにしたもの(Salzkartoffeln:写真左上)からピュレー状のもの(Kartoffelpueree)、スライスして焼くもの(Bratkartoffeln:写真右上)からパンケーキ風のもの(Reibekuchen/Kartoffelpuffer:写真左)、さらに小麦粉や卵と混ぜて作った大きな団子状のクネーデル(Knödel、クレーセ Klößeとも言う)等がある。なおクネーデルには、中に肉やチーズを入れるもの(右の写真の上)とプラムなどの果物を入れるもの(右の写真の下)があり、後者はバターやシナモン・シュガーをつけて食べる。両者とも簡単な主食として食べることが多い。

ⅱ.ローストとシュニッツェル
 煮込み以外にも、鶏やガチョウ等を含めたすべての肉がロースト(braten)され、丸ごと、時には皮つきの肉をオーブンで長時間かけて焼く。付け合わせは茹でたジャガイモ、シュペツレ、ポテトサラダ、あるいは赤キャベツの甘酢煮や焼きリンゴなど、肉の種類や好みによって様々である。秋も深くなると、北ドイツ人はガチョウの丸焼きを好んで食べる。ガチョウは一般的には祭りの料理で、腹の中にリンゴや干し葡萄等の果物、あるいはタマネギとガチョウのレバーを詰めて丸焼きにすることも多い。

 シュニッツェル(Schnitzel)はカツレツのようにパン粉をつけて揚げたものだが、揚げるというよりひたひたの油で両面を数分間狐色になるまで焼く感じである。また、肉は薄切りをさらに肉叩きで薄くし、予め塩胡椒しておく。例えばウィーン風シュニッツェル(Wiener Schnitzel)の場合は子牛を使い、塩ゆでのジャガイモとサラダ菜(Kopfsalat)を添えて食卓に出し、すでに味がついているのでレモン汁だけで食べる。この場合、飲み物は白ワインにかぎる。他にも茸とサワークリーム(Sauerrahm)を添えた猟師のシュニッツェル(Jägerschnitzel)などがある。