中世のワイン作りは農業技術の発達と並行して徐々に拡大し、その生産地も東はエルベ川流域、北はデンマーク南部でも生産され、生産量も特に15世紀から16世紀には一人当りの年間消費量が現在の5倍に達したと言われている。
今日では、ワイン生産の北限はアール川の少し北に位置するかつての首都ボンの対岸のケーニヒスヴィンターである。自然のままの栽培方法ではこのような北方の地での葡萄栽培は本来不可能だが、その秘密は切り立った川岸の北ないし東北斜面を使い、直射日光に加えて川面に反射する太陽光線のエネルギーも利用するという、地形を巧みに利用した栽培技術にある(写真はモーゼル川の東北斜面)。またこの地域は石炭の生産地であるルール地方に近く、石炭とともに掘り出されるスレートはもう一つの秘密である。つまり熱をよく吸収し、また保温性の高いスレートを砕いて土に混ぜることで、太陽の恵を三重に利用しているのである。もちろん、急斜面の利用は機械化を妨げるためコスト高につながるが、逆に細心の気配りがドイツ・ワインの繊細な味わいを生み出している。
ドイツ・ワインの生産地域(Anbaugebiet)は次の13地域がワイン法で決められている。
2)ヘシッシェ・ベルクシュトラーセ(Hessische Bergstraße)
ライン川の東側で、ハイデルベルクとフランクフルトの間にあるドイツで最も小さい生産地域。かなり温暖な地域であるため、ここのワインは力強く芳香に富んでいる。
3)ミッテルライン(Mittelrhein)
ライン川が大きく折れ曲がるビンゲン付近からケーニヒスヴィンターまでの両岸の斜面を利用する地域で、ローレライや古城が多い。
4)モーゼル=ザール=ルーヴァー(Mosel-Saar-Ruwer)
ライン川の支流の一つで盛んに蛇行するモーゼル川とその支流のルーヴァーおよびザール川岸の急斜面を利用して栽培が行われている。ライン・ワインと並ぶいわゆるモーゼル・ワインの産地。12世紀にシトー会の修道士たちが栽培を開始して以来の栽培地域で、ここのワインはすっきりとしたさわやかな味わいがある。
5)ナーエ(Nahe)
ナーエ川の流域一帯で、ここのワインはモーゼルとラインガウの中間的存在とされているが、土壌のせいで場所によって微妙な違いがある。リースリング、ミュラー=トゥルガウ、ジルヴァーナの三種がほぼ同じ程度栽培されている。
6)ラインガウ(Rheingau)
リューデスハイムからマイン川の合流地点までのライン川が東西に流れる部分の北側一帯で、北側のタウヌス連山のおかげで北風から守られ、かつすべての畑が南斜面という最も恵まれた環境にある(日照は年平均 1,500時間)。ここにはワイン醸造に関係する有名な修道院や城が散在し、また別名リースリング・ルートと呼ばれている。
7)ラインヘッセン(Rheinhessen)
ラインガウの南側の広大な地域で、平地と丘陵地帯で栽培されている。並酒から上質酒、甘口から辛口、白と赤といった様々なワインが製造されるが、品種はジルヴァーナとミュラー=トゥルガウが圧倒的に多い。
8)ラインプファルツ(Rheinpfalz)
ラインヘッセンのさらに南側にあるドイツ最大の生産地域で、大部分は肥沃な平地。日照も年平均1,800時間を超え、不作年が少ない。2000年の歴史を誇り、有名なドイツ・ワイン街道が南北に走っている。品種はラインヘッセンと同様、ジルヴァーナとミュラー=トゥルガウ種で半分以上を占める。
9)フランケン(Franken)
ライン支流のマイン川の谷間に散在する小規模な生産地域で、ボックスボイテル(Bocksbeutel山羊の陰嚢)と呼ばれる円形の扁平瓶がここのワインの専売特許である。ジルヴァーナ種が主体で、ドイツで最も辛口で通向きのワインとされている。特殊な土壌のためドイツ・ワインとしては異質で、その独特の香りはあまりなく、フランスのシャブリに近い。
10)ヴュルテンベルク(Württemberg)
同じくライン川の支流の一つであるネッカー川とそのいくつかの支流流域一帯で、栽培される品種も多く、特に赤ワインとロゼの生産はドイツ一を誇る。
11)バーデン(Baden)
ラインが北転するレーアラッハからハイデルベルクの近くに至るライン川右岸が主体で、ボーデン湖の北側も含まれる広大な地域。特にカイザーシュトゥール一帯は気候が温暖で、ここのルーレンダーやゲヴュルツトラミーナー種は育ちがよく、力強い火のようなワインができる。これ以外にも白ワイン用のグートエーデル、ミュラー=トゥルガウ、リースリング、赤ワイン用のシュペートブルグンダー等、数多くの品種が栽培され、しかも広大な上に土壌と気候にかなりの差があるため、ワイン自体もきわめて多様である。
12)ザーレ=ウンストルート(Saale-Unstrut)
ライプツィヒの西を流れるザーレ川の川岸にあるナウムブルク周辺と、その近くでザーレ川にそそぎ込むウンストルート川の狭い地域で、生産量はきわめて少ない。辛口でさっぱりしたワインで、ミュラー=トゥルガウ、ジルヴァーナ、ヴァイスブルグンダーなどが栽培されている。
13)ザクセン(Sachsen)
ドレースデンの少し下流のマイセンを中心としたエルベ川河畔のきわめて狭い地域で、フルーティーで酸味のある辛口ワインが特徴。ミュラー=トゥルガウ、ヴァイスブルグンダー、トラミーナーなどが栽培されている。