1. Quedlinburg (2003.5記)    


グリーンで示されている箇所にはそれぞれ写真が添えてあるか、リンクを張ってあります。その部分をクリックすれば、それらが取り出されます。
   2年前に Brocken 山に登った帰途にふと立ち寄ったこの町は Harz の北の縁に位置し、きれいに修復された 1500 以上の Fachwerkhaus が立ち並ぶ、中世さながらのきわめて印象的な美しい町である。但し、この最初の訪問はすでに夕方になっており、とても細かく見ている時間がなかったので、昨年再びBerlinから車で訪れてみた。Berlin からは、Magdeburg までは快適な Autobahn が続いているものの、その先の60キロほどは通常の国道であり、しかもこれらは、現在はまだ東ドイツのほとんどどこでもそうだが、片側1車線であるため、スピードの鈍いトラックや、しばしば出くわす農作業用の車両の後につくと、速度は途端に時速10キロほどになってしまう。Berlin から最低2時間半は見ておかなくてはならない。
   Quedlinburg は人口2万7千ほどの小さな町だが、1000年の歴史を誇り、しかも興味があるのは、尼僧院長が長らく政治の実権を握っていたという、その特異きわまりない歴史である。Sachsen 公(後のドイツ王)Heinrich I世が919年にここを王城として定め、以来ここで多くの帝国議会や公会議が行われたが、彼は遺言の中で、死後王妃がこの城の所有者になること、また、この城に尼僧院を併設することを命じ、966年にはその孫娘が最初の尼僧院長になるが、この帝国直属の尼僧院には、城下町ばかりか周辺の11の村々および遠く離れたいくつかの土地の所有権、さらには市の開催権や関税をかける権利も与えられていたという。Quedlinburg はその後都市として発展を遂げ、1426年にはハンザ同盟の加わっている。ちなみに、ドイツの最初の女医の出身地は Quedlinburg だったそうである。
   Quedlinburg は Saale 川の支流である Bode 川の河畔にあるが、町の南東に巨大な砂岩の丸い岩山(Schloßberg あるいは Schloßterrasse という)があり、その上に城と尼僧院付属の教会 St. Servatii が聳え立っている。ここからの町の眺めは壮観きわまりない。市壁も6割がた残っており、これも一見の価値はある。
(写真は左が城、右がSt. Servatii)
   Quedlinburg のもう一つのメルクマールは、すでに触れたおびただしい Fachwerhaus の存在である。かつては3000棟を超えていたと言われているが、痛みが激しく、特に DDR の時代にそれが顕著になり、また、新しい建物に建て替える計画も進んで、数は半減している。Quedlinburg は1994年に世界遺産に指定されたが、これは上述の城と教会に加えて6世紀にわたる Fachwerk の歴史と、それをつなげている路地群がほとんどそのまま残されているという、都市建築上の価値が認定されたためである。
   Quedlinburg の Fachwerkhaus は数の上で他を圧しているだけではない。ドイツ最古の Fachwerkhaus(1320年)が今でも残っており、しかもその家には1965年まで人が住んでいたというから驚きである。この家は、今では元の状態に完全に復元されて Fachwerkhaus の Museum になっており、ここを訪れれば Fachwerkhaus のすべてがわかるようになっているが、この建物自体がその展示品でもある。
   Quedlinburg の Fachwerkhaus の集団は、他の町のものにくらべて非常に美しい。家並みがそろっていることもあるが、それぞれの時代の特徴が明確に出ていたり、何よりも装飾が美しい。露出した縦横の梁に独特の彫刻が施され、着色までしてある。家の入り口のドアの芸術的な装飾や、そこに付けられているノッカーも、よく見ると凝りに凝っている。もちろん専門的なことはよくわからないが、Fachwerhaus に興味のある者には何とも楽しい町である。なお、Quedlinburg は Klopstock の生まれた町でもあり、Schloßberg に登る途中に修復されたその生家が、家屋そのものは大したものではないが、残っている(右写真)。
   Quedlinburg にはこれら以外にも注目に値いする建物が数多く存在するが、その中でも、美しい旧市街の Marktplatz にある、現在でも市役所として使われている Rathaus は1310年に最初の部分が立てられ、その後何度か拡張されたようで、さまざまな様式が入り交じっている。用途もいわば多目的建造物で、会議はもちろんのこと、結婚式や裁判など、あらゆることに用いられていたらしい。なお、19世紀の Quedlinburg はステンドグラスの製造地として有名になり、今でもその時代の作品が Rathaus の立派な会議室や階段の吹き抜きを飾っている。