食事 Mahlzeiten

 「はじめに」で触れたように、ドイツ人が外でこそ比較的豊かな食生活を楽しむようになったとはいえ、家庭での食事が相変わらず質素で、またかなりワン・パターンであることに変わりはない。なお、一般的なドイツ人の一日の食事の回数は2回の朝食と昼食、お茶の時間、それに夕食の5回である。

a) 朝食 Frühstück
 北部のウェストファーレン地方のように農業地帯で、短かく、しかし日の長い夏には3時、4時にすでに畑に出ねばならない地方では、朝食を2回とり、一仕事した後の2度目の朝食には何らかのおかずが出ることもあるが、一般的にドイツ人の朝食はパンとバターとジャム、それに好みの飲み物と決まっている。朝食に食べるパンはブレートヒェンないし南部でゼンメルと呼ばれる小さく丸い白パンであり、これを平らに二つに切ってバターを塗り、その上に必ずジャムを塗る。このパンは毎朝家族の誰かが行きつけのパン屋で買ってくる習慣になっており、焼き立てのパンのように(wie warme Semmeln)飛ぶように売れるという言い回しさえある。また、ジャム作りは主婦の重要な仕事の一つで、裏庭で摘んだ果実や自ら野山で摘んだ野いちごをジャムにし、瓶詰めにして地下室に保存しておく。

 なおフランスのカス=クルートのように、ドイツでも子どもや勤め人が朝食に残ったブレートヒェンや、後に記す黒パンにバターとハムを挟み、時にはリンゴなどの果物とともに学校や仕事場に持参し、休憩時間に二回目の朝食として食べる習慣もかなり一般的である。

b) 昼食 Mittagessen
 かつて昼食は家族全員で食べるのが習慣だったが、最近では特にサラリーマンの家庭ではこの習慣は壊れかけている。しかし農村などでは、昼食は今でも一日のうちの最も重要な食事で、かなりボリュームのある温かい料理が出る。但し、ドイツの主婦も毎日そうした料理を作るわけではなく、例えば日曜日に作った煮込み料理の残りを翌日の食卓にジャガイモなどを添えて出したり、また比較的簡単な料理(Schnellküche)ですませる場合もある。しかし、そうした場合でもデザート(Nachspeise)は必ず出る。これも主婦がジャムと同様に安い時に買ったり、庭でとれた果物を自ら加工し、保存しておくことが多くの家庭で行われている。

c) お茶 Kaffee
 ドイツの主婦は料理よりケーキやクッキーを焼くことに情熱を燃やす傾向があり、週末には午後4時前後に客を招き、自慢の手作りのケーキやクッキーとともにコーヒーや紅茶をいれ、団欒の一時を過ごす。量も多く、気軽にノーと言えない日本人は閉口する。もちろん昼食や夕食に招待することもあるが、いずれにせよ友人や知人を自宅に招くことは、ドイツ人にとって人間関係を支えるための貴重な手段である。

d) 夕食 Abendessen
 基本的には火を使わず、したがって冷たい食事(kaltes Essen)と呼ばれている。非常に簡単で、昼食が重いことやお茶の時間にケーキ類を沢山食べることにもよるが、寝る前に大量に食べない習慣は健康に対するドイツ人の考え方とも関係している。多くの場合、スライスした黒パンやライ麦パンにバターを塗り、その上に薄切りのソーセージやハム、レバーペーストやチーズを乗せて板の上でナイフとフォークを使って食べる。飲み物は、子どもは炭酸入りのミネラル・ウォーター(Sprudel)やジュース(Saft)、大人はビールかワインである。